授業概要
遺憾ながら、大学以前の憲法教育は、およそ貧困である。問題関心の芽が摘まれ、
論理的な思考が犠牲にされるのと引き替えに、丸暗記の威力で大量に詰め込まれた形
式的な知識が珍重されるという病理現象は、依然として過去の問題とはなっていない
。憲法とは何かという本源的な問いが、学校教育のなかで真剣に考慮されることはな
い。学歴獲得競争を勝ち抜くために、受験知識の効率的吸収が最優先される教育現場
では、それは無価値な言説である。しかし、そもそも日本の公教育を歪んだものとし
ている元凶は、憲法的価値を骨抜きにしようとする権力意思なのである。
本講義では、立憲主義の貫徹に意義を認める立場から、近代西欧に源をもつ立憲主
義の歴史を俯瞰し、特に日本の明治憲法から日本国憲法への転換と、戦後史における
様々な憲法問題(人権問題)の意味を読み解く過程において、遅ればせの、しかし不
可欠な、憲法意識の醸成を促すことを目的とする。
授業計画
第1講 総論:日本の「現在」を考える〜戦後民主主義の現在的位置など
第2講 立憲主義の歴史的展開〜自然権・社会契約・権力分立の思想
第3講 人権思想の歴史的展開〜人権価値の「普遍性」を問うことの意味
第4講 人権を守る人々と裁判闘争〜朝日訴訟・自衛官合祀訴訟ほか
第5講 明治憲法体制の実像〜未完の近代から「近代の超克」論への転落
第6講 日本国憲法の制定過程〜「押しつけ憲法」論の非論理性
第7講 日本国憲法の平和主義〜「平和的生存権」の思想
第8講 「沖縄問題」と日本人〜沖縄が問う日本の平和主義と民主主義
第9講 子どもの人権〜校則・体罰・子どもの権利条約
第10講 「憲法改正」論の諸相〜90年代改憲論の意味
成績評価の方法
論述試験
テキスト
杉原泰雄『新版憲法読本』(岩波ジュニア新書)
参考書
樋口陽一・大須賀明『日本国憲法資料集〔第3版〕』(三省堂)
その他
履修にあたっての留意点
レジュメを配布するので、口頭での説明が主体となる。ノートのとり方を工夫されたい。
学生へのメッセージ等
本を読む習慣をつけること。
|